大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人高島淸一、同牧〓夫、同松本政一の三名を各懲役八月に被告人宮木大吉、同高岡忠雄、同武久義一の三名を各懲役六月に処する

被告人全部に対し本裁判確定の日からいずれも二年間右各刑の執行を猶予する

理由

第一、阪神内燃機労働組合は昭和二十一年一月二十八日神戸市長田区一番町三丁目一番地所在阪神内燃機工業株式会社本社、神戸工場、飾磨工場、東京出張所における会社利益代表者等を除く職員工員傭員を以て組織せられ(その後昭和二十二年十月後記労働爭議の直前同会社の職員は全部同組合から離脱し別に職員のみで労働組合を組織)被告人等はいずれも同組合所属の工員であつて被告人高島同牧は夫々該労働組合の組合長又は副組合長に就任していたものであるが同年七月十四日頃右組合は会社に対し翌八月十五日を以て期間満了すべき労働協約の一部改訂を申入れたところその翌日会社側からも組合に対し、その労働協約全部破棄の通告をしたので新協約締結のため旧労働協約の有效期間を順次三回に亘り同年十月五日まで延長し、その間労資双方から選出された起草委員会更に経営協議会において合計十数回に亘り審議を続けたのであるが組合側は「クローズトシヨツプ」制を、会社側は「オープンシヨツプ」制を固持して互に相讓らずそのため遂に審議は両者の間に妥結をみるに至らざるまゝ同年十月五日の経営協議会を最後として旧労働協約は失效し爾後無協約状態に入つたところ、一方組合は同年七月頃から当時の食糧危機に際し組合大会を開催しその決議に基き会社に対し食糧危機がある程度見透しがつくまで毎月一人当り六百五十円余の危機突破資金の支拂方を交渉したのに対し、会社は経理上現金給與が至難であつたため同会社神戸飾磨工場に在つた蒲團、疊、電氣自動車を提供し同年八月二十八日頃までの間一人当り二百五十円を支給したところその後九月五日頃に至り組合は新たに八、九月分の危機突破資金として一人当り月平均千円宛の支給方を要求し、会社は組合側に総計百八十万円を危機突破資金として支拂うことを諾約したが、その支拂時期につき右百八十万円のうち五十万円を同月二十日頃に三十万円を翌十月十日頃に、残余の百万円は会社手持の四エル、ヂイゼルエンジンが賣却できたときこれを支拂う旨を回答し、その後右三十万円と五十万円は約定期日に支拂つたのであるが残金の百万円の支拂は右四エル、ヂイゼルエンジンが会社の予定した時期に賣却ができず又会社が予期していた会社製品の公定價格の改訂が予想外に遅延し焦慮していたところ日々高騰するインフレのため生活難に陷つた組合員は同年十月十日組合員大会において労働協約の急速締結、賃金の六割値上、通勤交通費全額会社負担、退職手当支給につき社員工員の無差別待遇八、九月分の突破資金残額の至急支拂等の要求事項を決議した後、翌日これを会社側に書面を以て要求し、これが実現をはかるべく團体交渉により会社と折衝を続けたが労資の意見対立して容易に妥結せず交渉は漸次膠着状態に陷つたため遂に同月二十日過頃から組合員の一部において怠業状態の発生をみるに至り同月二十一日組合員大会において組合側は会社に対し鬪爭宣言を発すべきことを決義したのであるが被告人高島、同牧その他幹部交渉委員は事態を收拾すべくなおも会社との間に交渉を試みた結果、同日会社からも最後案の提示があり右幹部交渉委員においてこれを檢討後会社側に依然互讓の精神に欠くるものありとなし前記組合員大会の決議に從い自己の要求の実現をはかるべく断乎会社との鬪爭に入るべきことを一決し翌二十二日会社に対し鬪爭委員長被告人松本政一、組合長被告人高島淸一の名において組合員大会の決議として「クローズドシヨツプ」制の採用を含む労働協約締結賃金六割の値上、通勤交通費全額会社負担、退職手当支給につき社員工員の無差別待遇、十月末までに、八、九月分の危機突破資金の残額百万円の支拂等数項目に亘る組合員の要求事項に対し同月二十五日までに書面をもつて回答すべき旨の決議書と会社に対する鬪爭宣言書とを同時に手交したところ同月二十五日会社は組合側に対し組合が右回答期限を待たずして会社に対し鬪爭を宣言したのは遺憾である組合員は速かに平常の状態に復帰し互讓の精神を以て協議に入り円満なる妥結に達するよう切望する旨の回答をなしたのであるが、組合側はその後同月二十八日までの間殆んど半日は就業半日は演藝会、講座等の行事を行い神戸工場飾磨工場共怠業状態は依然継続されたため、ここに会社は組合側の爭議行爲に対する対抗手段として前記神戸工場及び飾磨工場の閉鎖もまた己むを得ざるものと決意するに至り、同月二十九日(同会社の給料支拂日の翌日に該当)早朝を期し、右両工場内の各建物に施錠し、該工場正門にそれぞれ当分の間工場を閉鎖する旨を掲示し所謂作業所閉鎖を実施したのであるが、同日朝出勤した被告人高島、牧、松本、宮木、高岡等は他の組合鬪爭委員と同日午前開催された鬪爭委員会において鳩首協議した結果、会社の右処置に対し組合側においてもその対抗策として会社の意思に反し組合が会社に代り組合員自からの手により、右両工場の作業経営にあたるべく同工場の機械工場等建造物内に侵入し、所謂作業管理を実施することを一決し

(一)  同日午後一時頃当日出勤していた神戸工場所属の組合員五百余名に対し指令して前記会社社長小曾根眞〓の看守する右工場の機械工場の建物入口の施錠を外して同工場内に乱入せしめ以て故なく侵入し

(二)  被告人武久を除くその余の被告人五名は同月三十一日鬪爭委員会の席上他の鬪爭委員と今後作業管理を継続するにつき出勤工員のため右工場内食糧倉庫にある労務加配米を倉庫から搬出してこれを工員の晝食に供することを協議決定しこれに基き被告人高岡は組合員統制部長田中明、実動部長福田藤太郞等と共に同日午後一時頃前記倉庫入口の施錠をドライバーで外して倉庫内に故なく侵入し同所に格納中の同会社の保管する労務加配用の玉蜀黍粉三百六十一瓩、小麦粉四十八瓩高梁三百七十六瓩大豆十五瓩、小豆十三瓩、ラード約四貫を搬出しこれを竊取し

(三)  被告人武久は前記労働組合飾磨鬪爭支部長であつて本件爭議に際し飾磨鬪爭支部長をしていたものであるが、同年十月二十九日発せられた鬪爭本部の作業管理の指令に從い同月三十一日右支部所属の組合員数十名と共謀の上阪神内燃機工業株式会社飾磨工場長牟田是男の看守する姫路市飾磨区細江浜万才所在の同工場機械工場建物内にこれに接続する食堂の窓及び右機械工場東入口の施錠を外して該個所から故なく侵入し

第二、被告人高島、同牧、同松本等は同年十一月十二日頃鬪爭委員会において会社の施設資材を使用して製品を製作しこれを販賣し得たる金銭を以て爭議中における組合員の生活補給金として貸付ける等の内容を有する所謂生産管理の実施を協議決定し翌十三日この旨会社に通知すると共にその頃被告人武久にもその生産管理実施の指令をなし、これに基き被告人武久は

(一)  同月十七日頃右飾磨工場において、飾磨支部組合員寺尾勤一外三名と共に前記会社所有にかかる瓦斯管十米五九、チーズ二本、エルボ五箇、ニツプル三箇、フレンチ一組、ソケツト三箇等の資材を竊取し

(二)  同月十九日頃同支部組合員照戸晴美と共に前記牟田是男の看守する同工場内変電所倉庫の入口の施錠を合鍵を使用しこれを外して内部に故なく侵入し同所に格納中の前記会社所有にかかる手動低圧空氣圧縮機一台、亞鉛引鉄板一枚(時價合計一万九十五円位相当)を竊取し

(二)  同月二十六日頃前記工場において同会社所有にかかるボルトナツトの材料である丸棒鋼約百四十二瓩(時價二千五百六十三円位相当)を竊取し

たものであつて被告人高島、同牧、同松本、同宮本、同高岡の判示第二の(一)及び(二)の建造物侵入の所爲はそれぞれ犯意を継続してなしたものである

右事実中各犯意継続の点を除き

判示第一の事実は

一、被告人高島の当公廷における判示飾磨工場にも判示の如く怠業状態が継続されていたこと、判示会社が工場閉鎖を決意するに至つた事情、判示十月二十九日鬪爭委員会における判示謀議者並にその謀議の内容、判示(一)の犯行時刻判示(二)の鬪爭委員会の協議があつた日時、その謀議に基く犯行時刻及び判示(三)を除く判示同旨の供述

一、檢事の被告人牧に対する聴取書中同人の判示十月二十九日鬪爭委員会における判示謀議者並にその謀議内容、及び判示(一)の犯行時刻につき判示同旨の供述記載

一、檢事の被告人宮木に対する聴取書(第一回)中同人の判示(二)の鬪爭委員会の協議があつた日時及びその犯行の時刻につき判示同旨の供述記載

一、証人小曾根眞〓に対する当裁判所の訊問調書中、同人の自分は判示会社の社長であるが会社は労働組合と待遇改善、労働協約締結等につき折衝を続けていたが判示十月二十二日組合幹部が要求書と共に鬪爭宣言決議文とを手交しその後工場の規律は乱れ工場長の命令に服せず勝手に演藝会等を開き殆んど就業しないので同月二十七日組合に対し右状態が継続するならば会社は重大なる決意を有する旨の警告を発したのに拘らず反省しないので止むなく工場閉鎖の処置をとるに至つた旨の供述記載

一、檢事の守屋磨瑳夫に対する聴取書中同人の自分は昭和二十年から判示会社の常務取締役に就任しているものであるが昭和二十二年十月十一日頃から同会社工員の労働組合は待遇改善を要求し團体交渉により会社と折衝を続けていたところ同月二十二日会社側の提案した案を組合側は拒否する旨の回答をなすと同時に鬪爭宣言書と待遇改善要求の決議書を手交しその要求に対し同月二十五日までと定めた回答期限付で回答を迫つた、会社幹部においては組合側は右回答期限までは組織的な爭議行爲はしないと思つていたところ同月二十二日朝から既に組織的なサボ状態に入りその日の午後は組合大会を開き二十三日は休日であつたが、翌二十四日も依然サボ状態は繼続されたので二十五日組合側に片手恐喝片手交渉ということは困るから兎も角鬪爭体形を解いて常態に復してから交渉しようではないかと申入れたのに拘らず、その後も組合側は態度を改めなかつたため会社は組合側に反省を促す目的を以て引続き組合側が爭議行爲を繼続するならば会社としても重大な決意を有する旨を掲示したところ組合側には、反省の態度が認められなかつた。ここにおいて会社としてはこのまま推移すれば組合側のため如何なることが行はれるかも知れないという不安な状態にあつたので二十八日工員の給料の支拂を済ませた後翌二十九日を期しいよいよ爭議の対抗手段として、工場閉鎖をすることに決し同日兵庫縣労政課所轄長田署にこの旨通告し二十九日工場の各門を閉鎖し当分の間工場を閉鎖する、爭議中の賃金諸手当は支拂はない旨掲示し工場の入場を拒絶したのに拘らず組合員は同日会社事務所正門から工場内に入つた自分が事務所二階で組合幹部の者に工場閉鎖の処置をとるの已むなきに至つた事情及び工場内に工員側の入場は許されないことを告げているとき工場内にある本工場鑄物工場に施錠のある扉を開き内部に入り工場を占拠したという報告を受けた旨の供述記載

一、証人牟田是男に対する当裁判所の訊問調書中同人の自分は昭和十九年八月から阪神内燃機工業株式会社飾磨工場長をしているものであるが同工場の工員労働組合は神戸工場の工員労働組合と同様待遇改善、オープンシヨツプ制の採用等の要求に関し会社と交渉していたが飾磨工場における組合側は昭和二十二年十月二十一日、二十二日共作業に熱意なく二十三日は公休日であつたがその翌二十四日午前中も前同様であり午後会社の許可なくして工員大会を開いた二十五日午前中就業午後工員大会を開きその友誼團体からも激励演説に來ていた者があつた二十六日は午前中は役員を除き就業、午後工員大会を開いたこの日機械主任から特急工事があるから手配してくれるやう支部長に賴んだところ鬪爭に入つているからという理由でこれを拒んだということである。二十七日は公休日、その翌日会社は社長の声明書を事務所の壁に掲示したところ組合員はその前に集合し労働歌を合唱して氣勢を揚げ午前十時半大会開催し午後も大会や演藝会を開いた旨の供述記載

一、香川眞壽夫作成にかかる始末書中自分は判示会社の神戸工場副長兼労務課長であるが判示労働組合は判示の如く爭議に入り工場閉鎖中にも拘らず昭和二十二年十月三十一日午後一時頃同会社倉糧倉庫にあつた会社側の保管している高梁粉三百九十八瓩六、玉蜀黍粉三百六十一瓩、丸麦四十一瓩五、大豆十五瓩、小豆十三瓩、ラード四貫八百五十匁小麦粉四十七瓩を会社側が拒否するにも拘らずこれを搬出した旨の記載

一、証人牟田是男に対する当裁判所の訊問調書中同人の判示(三)の侵入につき判示同旨の供述記載

を綜合してこれを認め

判示第二の事実は

一、檢事の被告人武久に対する聴取書(第一回)中同人の判示被害品目数量及びその時價の点を除く判示同旨の供述記載

一、牟田是男作成にかかる始末書(昭和二十二年十一月十九日附及同年十二月五日附)中判示(一)乃至(三)に照應する被害顛末の記載

を綜合してこれを認め

各犯意繼続の点は被告人武久を除く各被告人等が判示短期間内に同種の行爲を繰返している事蹟に徴し明かである

法律に照すと被告人六名の判示所爲中建造物侵入の点は各刑法第百三十條第六十條に竊盜の点は各刑法第二百三十五條第六十條に該当するところ、判示第一の(二)及び判示第二の(二)の建造物侵入と竊盜とは互に手段結果の関係があるので同法第五十四條第一項後段第十條、なお被告人武久を除く各被告人等の判示第一の(一)及び(二)の建造物侵入は夫々犯意を繼続してなしたものであるから昭和二十二年法律第百二十四号附則第四項刑法第五十五條を各適用し判示第一の(一)並に判示第二の(二)はいずれも重き竊盜罪の一罪となすべく判示第一の(三)につき所定刑中懲役刑を選択し上記被告人高島、同牧、同松本、同武久の所爲は同法第四十五條前段の併合罪であるから同法第四十七條本文第十條により犯情重しと認むる判示等第二の(二)の竊盜罪の刑に法定の加重をなし以上各刑期範囲内において被告人高島、同牧、同松本の三名を各懲役八月に被告人宮木大吉、同高田忠雄、同武久義一の三名を各懲役六月に処すべきところ犯情いずれも刑の執行を猶予するを相当と認め被告人全部に対し同法第二十五條に則り本裁判確定の日からそれぞれ二年間右各刑の執行を猶予することとする

竹内、井藤両弁護人は本件爭議中の被告人等の行爲が適法か否かを判断するには

一、被告人等の爭議目的の正当性即ち会社側に対する要求事項が妥当なものであつたかどうか

一、近時企業は一般に所有と経営とが分離し從つて企業の社会的性質、所有権の社会的意義を考慮するときは民法、商法、刑法等旧來の市民法的法規は新らしき労働法規のため後退を余儀なくされていること

一、誕生後未だ日浅き我國労働組合はその組合資金に乏しくインフレ昂進のため日常生活に困窮せる労働者に対しその生活権擁護のため爭議手段として生産管理を認めなければ到底労資の地位の公正な平等は期待できないこと

一、組合員が爭議中生産管理という爭議手段を採つた場合その生産管理中の行爲が從來の会社企業運営の本筋を無視するものなりや否や、会社が資金難、資材難等のため経営に困難を來した場合会社はこれに対し如何なる処置方法を講ずるであろうかということ

一、組合側はその罷業中資本家側のためあらゆる手段により罷業破りが行なはれることを予想している如く会社側においてもその爭議手段として工場閉鎖をした場合、組合側により生産管理という対抗手段が採られることも亦当然予想すべきであること

一、爭議中会社側の工場閉鎖の処置により労働者はそれがため直ちに工場において労働する権利義務乃至工場に対する占有権を喪失するものでないこと

等これら諸般の事情を参酌して判断さるべく被告人等の本件行爲は敍上標準に照すも又会社側の何等首肯し得べき事由なきに拘らず故らに労働協約有効期間の延長を拒否するの挑戰的暴挙に対する己むを得ざるに出でた行爲であるから労働法第一條第二項に所謂正当なるものに該当すること明白であり罪となるべきものでない、なお被告人等が判示倉庫から加配米を搬出するも右は作業管理の一聯の行爲であり又その搬出した加配米は被告人等労働者に対し配給機関から配給されたものであつて会社はただその配給を受けるにあたり配給機関に対し加配米の代金を被告人等のため一時立替え支拂をなしたものにすぎないものであるから、これを消費処分するの権利は被告人等労働者のみが享有し得べく從てその所有権は被告人等に帰属していること明かであるので被告人等が上記の如くこれを搬出するも毫も会社の所有権を侵害する謂われなく刑法上竊盜罪を構成するものではない旨主張するので按ずるに我國労働者は労働組合法及び労働関係調整法の下に團結権、團体交渉権と共に所謂爭議権をもつているのであるがその爭議権の行使については労働組合法第一條第二項の規定によると刑法第三十五條の規定は労動組合の團体交渉その他の行爲にして労働者の地位の向上を図り経済の興隆に寄與することの目的を達するため爲した正当なものにつき適用ある旨規定せられているからその條項を以てすべての爭議行爲に対し正当性を賦與したものでないことは明瞭でありその正当性の判断の標準は具体的に箇々の事例につきその爭議行爲の目的手段方法等その当時の客観的條件により正当な社会通念に照し判定さるべきものである被告人等の本件行爲は要約するに判示認定の如く判示経緯の下に会社と被告人等所属の労働組合とが爭議に入り被告人等労働組合員が判示十月二十日頃から同月二十八日迄連日怠業状態を繼続するの爭議手段に出でたのに対し、これが対抗手段として会社が同月二十九日早朝から工場閉鎖をしたところ被告人等はその工場閉鎖中であることを熟知しながら会社の意思に反し自己の要求事項の貫徹をはかるべく作業管理を行う目的を以て会社が施錠して閉鎖した工場に有形力を行使してその施錠を破り工場建物内に侵入しその後作業管理又は生産管理の下に会社の食糧倉庫内にあつた会社の保管する労務加配米を搬出し又は会社の資材を消費して会社の工場閉鎖を無效ならしめたことに帰するのであるが前記会社の工場閉鎖の処置は前記証人小曾根眞〓に対する訊問調書、檢事の守屋磨瑳夫に対する聽取書中の各供述記載により明かな如く所謂資本家の生産サボ乃至被告人等の労働組合の破壞を目的としてなされたものでなく專ら被告人等の爭議行爲に対する経済的且防禦的対抗手段であり、その他会社が右爭議行爲を採るにつき権利の濫用があつたものとは認め難い、しかるに被告人等は工場閉鎖中であることを熟知しながら敢て自己の実力に訴へ上記の所爲に出でたことはその爭議行爲が正当な目的の下になされたものであつても手段において明らかに常軌を逸脱し到底正当なものとは謂へない我國現在の労働者の経済上の地位と工場閉鎖との比重の差を評價考量するも会社に被告人等の採つた判示の如き行爲を甘受忍容すべきことを求むるのは労働條件の決定につき経済力社会力の行使によつて労資間の実質的平等をはかるため保障された労働者の團結権、團体交渉権の本旨に鑑み公正を欠くものである労働者は斯る場合自己の権利実現のため國家の公権的制度によりその救済を求むべく直ちに実力を行使して自力救済の方法に出ることは私権の公権化された現行の法秩序の下においては許容すべきでない、なお弁護人は被告人等の判示労務加配米の搬出行爲は前掲理由に基き刑法上竊盜罪を構成しない旨主張するけれどもその作業管理は前段説示により明らかな如く正当性を欠くものであるのみならず抑々竊盜罪の客体は他人の所有権の保護よりも寧ろ他人の現に所持する財物の財産的秩序の保護即ち財物に対する他人の所持そのものを被害法益とするものであるからいまだ違法性阻却事由の認むべからざる本件被告人等の判示搬出行爲は会社の意思に反しその所持を侵害したものである以上労務加配米に対する被告人等の所有権の存否如何に関せず竊盜罪を構成するものと謂うべく弁護人の右主張は全部採用し難い

よつて主文の通り判決する

(裁判長裁判官 大野一雄 裁判官 杉田亮〓 裁判官 北後陽三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!